生成AI導入ガイド:基本知識からリスク管理まで企業が知っておくべきステップ
2024.09.11このコラムのポイント
最近世間では、何かと「生成AI」の活用が求められるケースが増えてきています。しかし、正直「生成AI」事情にあまりついていけてない、生成AIを導入したいけれど何から始めて良いか分からない、といった悩みを抱えている方も少なくないのではないでしょうか?
この記事では、生成AIに関する基本的な知識や多岐にわたる魅力的な機能を確認し、生成AIをビジネス業務に導入するメリットを紹介しております。また、生成AIの業務活用に伴うリスクや、それを踏まえたビジネス活用のポイントなど企業様の更なるレベルアップのためのステップをまとめております。ぜひこちらを参考にして、生成AIのビジネス導入を前向きに検討して頂けると幸いです。
生成AIの概要
生成AIとは、膨大なデータを基に新しい情報を生成する人工知能の一種です。特に近年、自然言語処理や画像生成などの分野で注目されています。生成AIは、従来のAI技術とは異なり、既存のデータを分析・予測するだけでなく、まったく新しいコンテンツを生成する能力を持っています。これにより、企業や個人が新たな価値を創出するための強力なツールとなっています。
AIの分類と構造
まず、一般的にAI機能としてよく思い浮かべられるものは上の図のように入れ子構造になっています。
最も外側の大きなくくりが「AI(人工知能)」です。AIは、人間の知能を模倣する技術の総称であり、機械学習やディープラーニングを含む幅広い分野を指します。
AIの内側に「機械学習」のくくりがあります。機械学習は、データから学習し、予測や判断を行うための手法です。機械学習の中に「ディープラーニング」があります。ディープラーニングは、ニューラルネットワーク(=コンピュータが人間の脳のように学習し、問題を解決するための仕組み)を用いた機械学習の一分野であり、大規模なデータセットと複雑なモデルを使用して高度なパターン認識を行います。そして、最も内側に今回のテーマである「生成AI」があります。生成AIは、ディープラーニングの一部であり、新しいデータやコンテンツを生成することに特化しています。具体的には、テキスト生成、画像生成、音声生成などが含まれます。
生成AIの代表的なモデル
さらに、生成AIは多様な技術やアプローチに基づいて分類され、各社が選りすぐりのモデルを日々改良しています。ここでは生成AIの代表例をご紹介します。
1. GPT(Generative Pre-trained Transformer)
概要
GPTは、OpenAI社によって開発されたLLM(大規模言語モデル)であり、自然言語処理タスクに特化しています。LLMについては次の章で詳しく触れていきます。現在の最新バージョンであるGPT-4は、膨大なテキストデータを基に訓練されており、人間のような自然な文章を生成する能力を持っています。
主な機能と用途
- 文章生成 指定されたトピックに基づいて記事やブログの内容を生成する。
- 対話システム チャットボットとして顧客の質問に答えたり、カスタマーサポートを行う。
- テキスト要約 長い文章を簡潔に要約する。
- 翻訳 異なる言語間のテキスト翻訳を行う。
2. DALL-E
概要
DALL-Eは、OpenAI社が開発したテキストから画像を生成するモデルです。このモデルは、与えられたテキストの説明を基に、その内容に合った画像を生成することができます。例えば、「赤いバラを持った青い象」というテキストに対して、その情景を描いた画像を生成します。現在はDALL-E3(ダリ・スリー)が最新版のモデルとなっています。
主な機能と用途
- 画像生成 テキスト説明に基づいて新しい画像を作成する。
- デザイン支援 クリエイターがアイデアをビジュアル化する際のサポート。
- 広告・マーケティング ユニークなビジュアルコンテンツを生成してキャンペーンに利用する。
3. Gemini(ジェミニ)
概要
Geminiは、Google社が開発した先進的なLLM(大規模言語モデル)です。Geminiはテキストの生成、理解、翻訳、要約など、さまざまな自然言語処理タスクを高い精度で実行することができます。この精度は、Googleの膨大なデータと最新の機械学習技術を駆使して訓練されることによって保たれています。
主な機能と用途
- 自然な文章生成 人間のように自然で流暢な文章を生成する。ブログ記事やレポート、ストーリーの作成などに利用可能。
- 質問応答 ユーザーの質問に対して的確で詳細な回答を提供。
- テキスト要約 ニュース記事や研究論文など長い文書を短く要約することができる。
- 多言語対応の翻訳 異なる言語間でテキストを正確に翻訳することができる。
これらの生成AIモデルは、それぞれ異なる強みと用途を持ち、さまざまな分野で革新的な応用がなされています。
LLMも生成AIの一種
さて、皆さん「LLM」「大規模言語モデル」とは何か気になっていらっしゃるかと思います。読者の方々の中には、これらの言葉をよく耳にするという方も多いのではないでしょうか。実は「LLM(=Large Language Model、大規模言語モデル)」も生成AIの仕組みの一つに当たります。
LLM(大規模言語モデル)の基礎知識
LLM(大規模言語モデル)は、非常に大量のテキストデータを用いて訓練された生成AIの一種です。このモデルは、人間の言語を理解し、生成する能力を持っています。具体的には、文章の続きや、質問に対する回答、翻訳、要約などの言語タスクを行うことができます。
例えば、あなたが「猫はとてもかわいいです。彼らは…」と入力すると、LLMはその続きとして「よく遊び、眠り、毛をなめます。」といった自然な文章を生成することができます。
LLMの代表的なモデル
1. GPT-3.5
GPT-3はOpenAI社によって開発されたLLM(大規模言語モデル)で、自然な対話を実現します。自然言語の生成や理解に非常に高い性能を発揮します。特にビジネスの顧客対応や情報検索、コンテンツ生成などに活用されています。
2. Claude3(クロード3)
Claude3はAnthropic社が開発したLLM(大規模言語モデル)で、高い安全性と信頼性を重視して設計されています。コンテンツモデレーション(投稿監視)や倫理的なAI活用を目指す企業に適しています。Claudeシリーズの最新バージョンであり、より安全で効果的な対話を提供することを目指しています。
企業に生成AIの導入を勧める理由
ここまで読んでいただいた皆さんには、生成AIが何やら素晴らしい機能・能力を持っていることについては認識して頂けたかと思います。この生成AIの企業への導入を我々が積極的に勧める理由は、生成AIを業務に取り入れて上手に活用することで、例えば以下のような効果を実現できるからです。
業務効率・生産性の向上
- 生成AIを導入することで、反復的な作業やデータ処理の自動化・効率化が進みます。これにより、従業員はより価値の高いクリエイティブな業務に集中でき、生産性が向上します。
競争優位性の確保
- 生成AIを活用する企業は、データに基づいた迅速な意思決定が可能になります。市場の変化に素早く対応し、競争相手に対して優位に立つことができます。また、新しいアイデアやソリューションの生成を支援し、イノベーションを促進します。
コスト削減
- 自動化によるコスト削減は、生成AIの大きなメリットの一つです。人件費や運用コストの削減に加え、エラーの減少による損失防止も期待でき、オペレーションコストを削減できます。
これらの効果に加え、生成AIの業務活用を続けていく中で活用ノウハウが蓄積され、更なるプラスの効果も期待できます。
日本企業の生成AIの導入状況
日本企業でも徐々に生成AIの導入が進んでおり、日本企業全体の生成AI導入率は約35%というデータがあります。また、業界ごとの導入率と主な活用事例を以下にまとめました。
今後も、生成AIによって自動生成されるコンテンツの質の上昇やデータ分析の迅速さと正確性の向上、リスク管理の精度の向上などがより一層見込まれます。そのため、企業は生成AIの導入だけでなく、業務の効率化やサービスの革新に繋げるために生成AIの活用スキルを磨くことも急務となってくるでしょう。
業界・分野 | 導入率(%) | 主な活用事例 |
広告・マーケティング業 | 55 | コンテンツ生成、ターゲティング広告、データ分析 |
金融業 | 50 | リスク評価、不正検出、パーソナライズド金融サービス |
情報通信業 | 49 | 自然言語処理、コンテンツ生成、チャットボット |
製造業 | 43 | 品質管理、予防保守、サプライチェーンの最適化 |
小売業 | 37 | カスタマーサポート、マーケティング、自動化された在庫管理 |
エネルギー・インフラ業 | 35 | 予知保全、エネルギー管理、需要予測 |
医療・ヘルスケア | 31 | 患者データ分析、診断支援、バーチャルヘルスアシスタント |
生成AIに関する実態調査2023 ー加速する生成AIブームとビジネスシーンの実情:ユースケース創出が急務―| PwC Japanグループ
中堅・中小企業を対象とした生成AIに関する実態調査アンケート結果
売上高1,000億円以上の企業の生成AIに関する実態調査アンケート結果
ついでに、G7の他の国々の企業における生成AのI導入状況も見ておきましょう。
- アメリカ: 約65%の企業が生成AIを定期的に使用しており、特に金融、医療、情報通信業界での導入が進んでいます。
- カナダ: 生成AIの導入割合は約60%で、主にリスク評価、マーケティング、カスタマーサポートに利用されています。
- フランス: 約55%の企業が生成AIを活用しており、特に製造業と情報通信業界での利用が目立ちます。
- ドイツ: 生成AIの導入率は約58%で、製造業、医療、金融業界での利用が多いです
- イタリア: 約50%の企業が生成AIを使用しており、エネルギー管理や予知保全、コンテンツ生成に利用されています。
- イギリス: 生成AIの導入率は約63%で、情報通信、広告、金融業界での活用が進んでいます。
ソース:G7 Hiroshima Process on Generative Artificial Intelligence (AI)
どの国でも、日本と比較して生成AIのビジネス活用が進んでいることが伺えます。
生成AIの具体的なビジネス活用事例
それでは、ビジネスにおける生成AIの具体的な活用例をいくつかご紹介しましょう。下記の例は活用方法のごく一部に過ぎず、生成AIの扱いに慣れていくことで活用の幅も無限に広がっていきます。
コンテンツ生成
- 生成AIは、自動で文章や画像を生成する能力を持っています。例えば、マーケティング資料、ブログ記事、ソーシャルメディアの投稿などのコンテンツ制作を迅速かつ効率的に行うことができます。これにより、クリエイティブチームの負担を軽減し、戦略的な業務に集中することが可能になります。
カスタマーサポート
- チャットボットに生成AIを活用することで、24時間365日の顧客対応が可能になります。自然言語処理技術を駆使し、顧客からの問い合わせに対して迅速かつ正確に対応することで、顧客満足度を向上させることができます。
データ分析と予測
- 生成AIは膨大なデータを分析し、そこから有益なインサイトを引き出す能力があります。例えば、販売データを分析して将来の売上を予測したり、顧客の購買パターンを解析してマーケティング戦略を最適化することが可能です。
AIタレントの起用
- AIタレントは、人工知能(AI)技術を駆使して作成されたデジタルキャラクターや架空の人物のことを指します。AIタレントは、リアルな容姿や声、性格を持ってまるで実在する人物のように振る舞い、さまざまなメディアで活動することができます。彼らは、いつでも働くことができ、不祥事を起こす恐れもなく、多言語に対応することもできます。また、企業側はタレント起用の人件費や継続的な費用を大幅に抑えることができます。実際に、伊藤園のCMや野村ホールディングスの広告ポスターなどにもAIタレントが起用されています。
生成AIが抱えるリスク
さて、生成AIがもたらす魅力的な機能や効果についてはかなりご理解頂けたかと思います。しかし、生成AIもまだまだ発展途中であります。生成AIの業務導入には当然リスクも伴うので、それらのリスクについても認識しておく必要があります。
1. データプライバシーとセキュリティリスク
説明
生成AIの効果的な運用には大量のデータが必要です。このデータには、顧客情報や企業の機密情報が含まれることがあります。データが不適切に管理された場合、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクが高まります。
具体例
ある企業が生成AIを利用して顧客データを分析し、個別のマーケティング戦略を策定しているとします。この際、適切なセキュリティ対策が講じられていない場合、ハッカーによって顧客の個人情報が盗まれ、不正利用される危険性があります。これにより、企業の信用が失墜し、法的な問題に発展する可能性もあります。
2. バイアス・ハルシネーションと倫理的リスク
説明
生成AIは、学習データに基づいて出力を生成します。学習データに偏りやバイアスが含まれている場合、AIの判断や生成物もバイアスを含む可能性があります。これは、倫理的な問題や社会的な不公平を引き起こすリスクがあります。また、ハルシネーションとは、生成AIが、存在しない事実や不正確な情報を生成する現象です。AIモデルが学習データに基づいて関連性のない情報を組み合わせ、不正確な出力を生成することがあります。
具体例
- 採用プロセスに生成AIを導入した企業が、過去の採用データを元にAIに学習させた場合、もし過去のデータに性別や人種による偏りが存在していたら、AIはそのバイアスを反映した判断を行ってしまいます。結果として、多様性の欠如や不公平な採用が発生し、企業の評判に悪影響を及ぼすことがあります。
- 顧客が問い合わせをした際に、チャットボットが存在しない製品機能やサポートポリシーについて説明してしまう恐れがあります。この結果、顧客の混乱や不信感の増大を招いたり、サポートチームへの問い合わせが増加したりするといった影響が考えられます。
3. 過度の技術依存と運用リスク
説明
生成AIの導入によって、企業が技術に過度に依存するリスクがあります。AIシステムが故障したり、期待通りに機能しない場合、業務に大きな支障をきたす可能性があります。
具体例
生成AIを用いて在庫管理を行っている企業が、AIシステムに障害が発生した場合、在庫の過不足が発生し、商品供給に支障をきたすことがあります。また、AIの予測が大きく外れた場合、需要に対して過剰または不足する在庫を抱えるリスクもあります。これにより、売上の減少や顧客満足度の低下を招くことがあります。
生成AIのビジネス適用におけるポイント
先ほどの章で挙げた生成AIのビジネスリスクを踏まえた上で、生成AIの適切なビジネス適用のためのポイントをまとめました。
1. データプライバシーとセキュリティ対策
- データ管理の強化: 顧客情報や機密データを扱う際には、適切なデータ管理ポリシーを策定し、暗号化やアクセス制御などのセキュリティ対策を徹底します。
- セキュリティ監査: 定期的にセキュリティ監査を実施し、潜在的な脆弱性を早期に発見・修正します。
- コンプライアンス遵守: データプライバシーに関する法律や規制(例:個人情報保護法、EU一般データ保護規則、カリフォルニア州消費者プライバシー法など)を遵守し、データ処理に関する透明性を確保します。
2. バイアス・ハルシネーション
- データの品質向上: AIに学習させるデータセットは、特定の属性やグループに偏らない多様な要素を含むようにします。偏りの少ないデータを使用することで、公正な結果を生成します。
また、ノイズや不正確な情報を含まない高品質なデータセットを使用することでハルシネーションへの対策にもなります。 - アルゴリズムの透明性: AIアルゴリズムの動作をシンプルにし、ユーザーにとって理解しやすくします。AIアルゴリズムとは、コンピュータがデータを分析し、そこから学習して判断を下すためのルールや手順のことです。
- 出力の検証とフィルタリング:AIの出力を人間が定量的・定性的に評価して検証し、不正確な情報や不適切な内容をフィルタリングします。バイアスやハルシネーションが見られた場合はデータセットやアルゴリズムを再調整します。
3. 技術依存と運用リスク管理
- バックアッププランの作成: AIシステムに障害が発生した場合に備え、バックアッププランや代替手段を準備しておきます。
- 段階的な導入: 生成AIの導入は段階的に進めることを推奨します。初期段階では限定的な業務でテスト運用を行い、問題点を洗い出してから本格導入を行います。
- 継続的なモニタリング: AIのパフォーマンスを継続的にモニタリングし、必要に応じて調整や改善を行います。
4. 従業員の教育とトレーニング
- AIリテラシーの向上: 従業員に対して定期的なAI基礎知識の研修を実施し、AIの基本概念、応用例、最新の技術動向を学ぶ場を提供します。また、AI関連の書籍、ビデオ、記事などの学習リソースを整備し、従業員が自由にアクセスできるようにすることも効果的です。
株式会社サード・スコープではAI研修プログラムのご提供も行っており、AIに関しての基礎知識から、実際にChatGPTを使った実用・応用方法まで学ぶ事ができます。
- リスク対応訓練: データ漏洩やシステム障害などのリスク発生時に迅速に対応できるよう、定期的にリスクを想定した訓練を実施します。
5. パートナーシップと外部リソースの活用
- 専門家の協力: AIの導入や運用において、外部の専門家やコンサルタントの協力を得ることで、技術的な課題に迅速かつ適切に対応します。大学や研究機関と連携して、最新の研究動向や技術を学ぶ機会を得ることも有効です。
- 企業連携:AI分野で先進的な企業とのパートナーシップを構築し、研修プログラムや技術交流を行います。
まとめと次のステップ
さて、今回の記事では生成AIについて、基本的な知識や多岐にわたる魅力的な機能を確認し、企業での活用状況、生成AI導入のリスクとそれらを踏まえた活用ポイントを説明してきました。生成AIの技術は現在進行形で進化しています。今後の展望として、より複雑でクリエイティブなコンテンツ生成が可能になったり、ユーザーとの対話を通じて学習し、よりパーソナライズされたサービスを提供できたりするようになることが期待されます。
生成AIは、企業の生産性向上や新たな価値創出に大きく寄与する技術です。生成AIの利用価値に関心を持って頂き、これから生成AIの導入を検討する企業様にとって、次に以下のステップが推奨されます。
1. 生成AIの基礎知識を学ぶ:生成AIの基本概念や主要技術を理解する。想定されるデメリットについても考慮しておく。
2. 具体的な利用ケースを検討する:自社の業務ではどのようなニーズがあり、どのように生成AIを活用できるかを検討する。リスクまで含んだ具体的な利用シナリオを作成する。
3. 専門家の支援を受ける:生成AIの専門家や生成AIの導入サポートに特化した企業と連携し、最適な導入プランを策定する。
弊社株式会社サード・スコープでは、生成AIのコンサルティングサービスや研修プログラムを提供しています。実際に生成AIの導入から活用までのサポートを通じて、貴社のビジネスを次のレベルへと引き上げるお手伝いをいたします。興味のある方は、ぜひお問い合わせください。